茶室の顔「扁額」を自社製作! ~ 職人のこだわりと「実生庵」に込められた思い~
匠ブログ
以前茶室の工事をさせていただいたオーナー様より、その茶室に掲げる「扁額(へんがく)」の製作をご依頼いただきました。
茶室の顔とも言える扁額は、その建物の雰囲気や、込められた思いを伝える大切な看板です。通常は専門の業者に依頼することが多いのですが、今回は当社の職人が自社で製作から取り付けまで行いました。
一枚板から命を吹き込む「扁額」製作の工程
1. 選りすぐりの銘木選び
まず、オーナー様からの大きさや字体のご要望に基づき、扁額の土台となる木材を選定しました。
選んだのは、木目が非常に美しく、色合いも落ち着いた杉の無垢板です。この美しい杢目(もくめ)が、茶室の落ち着いた雰囲気と調和し、格式を高めてくれます。

加工前の杉無垢板
2. 縁起の良い「布袋彫り」の技
扁額の製作で特にこだわったのが、文字の彫り方です。
今回は「布袋彫り(ほていぼり)」という技法を採用しました。これは、文字の輪郭に沿って縁を深く彫り込み、中央部分を盛り上げて立体的に見せる彫り方です。
文字が力強く浮き出て見えるこの彫り方は、福々しく縁起が良いとされ、茶室の扁額にふさわしい仕上がりとなりました。

布袋彫り
3. 本物へのこだわり、胡粉(ごふん)での色付け
文字の色付けには、単なる塗料ではなく、日本画で古くから使われる「胡粉(ごふん)」を使用しました。
貝殻を原料とする胡粉の白は、深みと温かみがあり、杉板の美しい木肌と相まって、より上品で格調高い表情を生み出します。
「実生庵(みしょうあん)」に込められたオーナー様の思い
この扁額には、「実生庵(みしょうあん)」というお名前が彫られています。
オーナー様からは、「草木が種から芽を出し、しっかりと根を張り、成長していく」という力強く前向きな思いがこの名前に込められているとお聞きしました。
この思いを受け止め、当社の職人は一つ一つの工程に心を込め、扁額を完成させました。
そして、現場への取り付け
完成した扁額は、茶室の軒下に慎重に取り付けられました。
周囲の風情あるたたずまいや竹垣、そして植栽の緑に溶け込みながらも、茶室の存在感をしっかりと主張する、見事な仕上がりとなりました。
この扁額の製作を通じて、私たちはお客様の建物への思いを改めて深く感じることができました。
「実生庵」という名に込められた思いのように、これから先もこの茶室が末永く、そして豊かに使われていくよう、私たちも末永くお付き合いさせていただければ幸いです。